読んだ本 アーカイブ

2006.10.23

新ネットワーク思考(アルバート=ラズロ・バラバシ)

 以前紹介した、森健著『グーグル・アマゾン化する社会』のネタ本。

 著者のアルバート=ラズロ・バラバシは米ノートルダム大学の物理学教授でネットワーク理論の第一人者。学者の書いた本ではあるが、筆致は柔らかく、情景が思い浮かべられるような文章もしばしばあり、専門外の人でも読みやすい。

 森健本ではスケールフリー・ネットワークの発見がどのような意義を持つのかについてはあまり感覚がつかめなかったが、本書ではこのネットワークの仕組みが、生物の細胞内ネットワークから人間関係のネットワークまで、従来関係があるとは思われていなかったさまざまなネットワークに共通して見られることから、この複雑な世界を解き明かす鍵になる可能性を指摘している。科学読み物として、知的好奇心をかき立てられる。

 従来のネットワーク理論ではノード間のリンクはランダムになされると考えられていた。しかし、それでは実際に存在するさまざまなネットワークを説明できないことが明らかになり、スケールフリー・ネットワークが提唱されるようになった。

 スケールフリー・ネットワークとはベキ法則にしたがうネットワークで、このネットワークにおいては少数のノードが莫大なリンクを持ち、ハブとなる一方、大多数のノードは少数のリンクしか持たない。スケールフリーネットワークのわかりやすい例としては、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)が挙げられるだろう。ウェブページをノードとし、ハイパーリンクでリンクするネットワークを考えると、ヤフーのようなサイトは莫大な数のリンクを集めるが、大多数のサイトは少数のリンクに留まる。

 このネットワークの特徴は、成長するということとノード間のリンクがなされる際、優先的選択が行われるということである。ネットワークの成長によって新しいノードができるとき、そのノードはすでに多くのリンクを持っているノードとのリンクを優先的に選ぶ。しかし、ノードは適応度というものを持ち、それが高ければ後発でもハブとなれることが示されている。そして何とも不思議なのは、この適応度モデルの数式はアインシュタインが発見したボーズ=アインシュタイン凝縮という量子力学の現象の数式とそっくりになるということだ。

 スケールフリーネットワークは細胞の代謝ネットワークなど自然界で広く観察される一方、学術論文の共著関係やウェブページ間のハイパーリンク関係、あるいは経済現象などにも当てはまる。これら同列に扱われることのなかったようなものが、ネットワークという観点からすると同じ法則で説明できるというのは大変興味深い。

 スケールフリーネットワークは、エラーに対する耐性が極めて強いが、その一方局所的な故障が雪崩のように全体に影響を与えるカスケード故障という現象をときに引き起こす。その例として96年の米国西部大停電や97年のアジア通貨危機が挙げられているが、こうしたカスケード故障のメカニズムについてはまだよくわからない部分が多いようだ。また、本や映画、CDなどが爆発的にヒットする現象もカスケード故障と同じ枠組みで説明できるという。

 アメリカで大停電が起きたのにも、宇多田ヒカルのデビューアルバムが爆発的に売れたのにも同じメカニズムが働いているとして、もしそのメカニズムが解明できたなら、そうした現象を人為的に(最初から狙って)起こさせることは可能なのだろうか。

 世の中のものを点(ノード)と線(リンク)の関係だけで表してみると、スケールフリー構造になっているものがけっこうあるように思う。自分の連なるスケールフリーネットワークを見つけて、自分なりの実践として、ちょっとした正の連鎖としてのカスケード現象を起こそうと試してみるのもおもしろいかもしれない(例えば、ソーシャルブックマークで大量にブクマされるのも一種のカスケード現象だろう)。もちろん、一歩間違えば取り返しのつかない負の連鎖となる可能性もあるわけだが。

 ともかく、文系や理系といった枠にとらわれない、このネットワークの理論に関心をかき立てられた。お薦め。

4140807431新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く
アルバート・ラズロ・バラバシ 青木 薫
NHK出版 2002-12-26

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関連記事:
グーグル・アマゾン化する社会(森健)(06.09.22)

2006.10.17

ボランティア もうひとつの情報社会(金子郁容)

 著者はテレビのコメンテーターなどでもおなじみの慶応大学教授の金子郁容氏。専門はネットワーク論、情報論である。「ボランティア」と「情報」とは、一見すると不思議な組み合わせだが、ネットワークという切り口からユニークなボランティア論を展開している。

 ボランティアと聞くと、「無償の奉仕活動」と捉えられることが多いのではないだろうか。しかし、著者によるボランティアの定義は以下のようなものだ。

 あるきっかけで直接または間接に接触するようになった人が、なんらかの困難に直面していると感じたとしよう(地球環境の破壊のように、人類全体が直面する困難も含めるものとする)。ボランティアとは、その状況を「他人の問題」として自分から切り離したものとはみなさず、自分も困難を抱えるひとりとしてその人に結びついているという「かかわり方」をし、その状況を改善すべく、働きかけ、「つながり」をつけようと行動する人である。

 ポイントは「かかわり方」と「つながり」である。

 著者によれば、ボランティアのかかわり方というのは、困難を抱えている人もしくは状況に対し、自分に直接的な関係がなくともそこに相互依存的なつながりを見いだし、自分と結びついているというかかわり方をすることである。地球環境や自然災害、飢餓などの問題を人類共通の課題として捉えるような「宇宙船地球号」的な発想(著者はそうした相互的つながりを「相互依存性のタペストリー」と呼んでいる)がその基礎になる。

 だが、ボランティアとしてのかかわり方を選択するということは、自らをひ弱い立場に立たせること(自らをvulnerableにすること)だと著者は言う。ここで言われているのは、ボランティアとは、相互依存性のタペストリーを通じて、自分自身も広い意味でその問題の一部であることを自ら選択するということである。

 そして、つながりについて。著者はボランティアのプロセスを「つながりをつけるプロセス」として捉えており、それは情報を発生させるプロセス(=ネットワーク)と同じであるというのだ。

 情報は、「与えることで、与えられる」という特性を持ち、その相互作用を経る中で意味や価値が生まれてくる。ボランティアも、相手との相互作用の中で意味や価値が生じる。つまりボランティアを行うことでそうした価値を得て、それこそがボランティアの報酬となるわけだ。

 さて、本書でも書かれている通り、情報とボランティアは同じものではない。しかし、これらに共通するものがあるというのは、自分自身ボランティアにかかわったり、さまざまな事例を見聞きした経験からも実感することだ。

 例えば、人が情報に価値を認めれば、その情報は伝播する。同じようにボランティアも伝播する。一度つながりをつけると、どんどんつながっていくというのはボランティアにおいてしばしば聞く話である。

 自分の知人でKさんという人がいる。あるとき彼は仙台の街中で、落ちているごみが気になり一人で拾い始めた。せっせとごみを拾い集めているうちにだんだん周りの人が手伝い始めたそうだ。街のごみはKさんが捨てたわけではない。しかし彼は自分の問題としてそれを引き受けた。つまり、そこでごみの問題と彼がつながったわけだ。そこに価値を見つけた人がどんどんつながってきたのだろう。

 Kさんは今では環境問題に熱心に取り組み、仙台で行われる大きな野外イベントにおいて、ごみの分別を支援する活動を仲間と行っている。自分も何度か手伝った経験があるが、そこにボランティアに集まってくる人は本当にさまざまな人たちで、どのようにこの活動とつながったのかを彼らに訊ねてみるとまさしく共感のネットワークというものを実感する。ここで挙げたのは自分の身近な例だが、本書にも個人の始めたボランティア活動が共感の連鎖を起こし、ネットワークを形成していく事例がいくつか紹介されている。

 10年以上前の本だが、古さをあまり感じさせない。それどころか近年話題になってきているソーシャルキャピタルやネットワークあるいは市民社会論を先取りした本であると思う。ボランティアをネットワークと捉え、新しい情報社会としてのこれからの市民社会を考えるのによい本。

4004302358ボランティア?もうひとつの情報社会
金子 郁容
岩波書店 1992-07

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2006.09.27

質問力(齋藤孝)

 「伝える力は聞く力」という言葉を先日、ある方から聞いた。だいたい人というものは聞きたいことしか聞かないのだから、誰かに何かを伝えたいときには相手が何を聞きたいのか知ることが大事で、そのためにはまず聞く力が必要、というような話だった。

 確かに、質問する能力、問う能力というのはコミュニケーションの本質のようなものである。自分も仕事や研究の関係で聞き取りやインタビューを行うことがたびたびあり、また、そもそも普段の会話の中で自分の質問力が今ひとつだと感じていたこともあって本書を読んでみた。

■座標軸を使った質問の分類

 齋藤氏は座標軸を使った分類がお好きなようである(笑) 確かに座標軸を使って分類する視点を持つと、物事がわかりやすい。自分がしている質問がどの象限に入るのか意識していると、いい質問ができそうだ。

 例えば、専門家にその専門とは関係のない些末なことを聞くのは第2象限(具体的-非本質的)となる。自分が聞きたいが相手は話したくない(第2象限)の質問を「子どもゾーン」、相手が話したいが自分は聞きたくない質問(第4象限)を「大人ゾーン」と齋藤氏は呼んでいる。世渡りのためには大人ゾーンもときには必要そうだ(笑)

 現在と過去が絡まり合うような質問ができると確かに会話は盛り上がる。

■コミュニケーションの秘訣

 本書では、作家や学者、文化人などの対話やインタビューから例を引いて、質問力を高めるための技をいろいろ紹介している。その中からなるほどと思ったものを2つ紹介。

・相手と自分の共通点を探し出す
 「自分自身がどういう人間かを説明するより、互いに好きなものを見せ合う方が相手との接点を見出しやすい」とあったが、人間誰しも自分の好きなものについては語りたがるものである。

 お互いのそういうポイントをうまく見つけられるようにするとよいだろうし、あらかじめそうした工夫をしておくとよいかもしれない。名刺の後ろに「自分の好きなものリスト」でも載せておこうか。

・相手の変化について聞く
 映画監督の周防正行氏がプロ野球の古田敦也捕手に「古田さんの打撃が、劇的に変わった瞬間って何度かあると思うんですけど、最初はなんですか」と質問している例が出ている。変化については、変化前と変化後で比較するのは話しやすく、劇的に変わったときというのは人は語りたがるものとのこと。


 自分でもインタビューや聞き取りをするときによく使っている方法があるので、ここで3つ紹介する。

・きっかけを聞く
 「○○を始めたきっかけは何ですか」「なんで○○になろうと思ったのですか」など、応用範囲の広い質問。話のとっかかりになりやすいし、誰しも何かを始めた経緯というのはよく覚えているものである。本書でも宇多田ヒカルがダニエル・キースにしている質問を引いて、「物事の結果について聞くより、何かが生まれてきた経緯について聞いたほうが得るところが多い」とある。

・時間軸に沿って聞く
 時間が何度も前後するようだと、話をする方もしづらいし、聞く方も混乱してしまう。時間軸に沿っていると、話す方も聞く方もやりやすい。ある程度本格的にインタビューをやるならば、あらかじめ相手についての年表を作って、それを手元に置いて質問するのもよい。

・苦労したこと、困難だったことについて聞く
 「相手の変化について聞く」にも重なるが、何かを成し遂げた人なら、だいたいそれまでに苦労や困難を経験しているものである。そこで、どのような苦労があったのか、それはどのようにして乗り越えたのかを訊ねる。困難にぶつかり、そこを乗り越えるというのはストーリーのクライマックスだからだ。


 さて、本書にはよい質問をするための特別な方法が載っているわけではなく、比較的当たり前というかまっとうなことが書かれている。例えば「本質的で具体的な質問をせよ」というのは、今さら言われるまでもないありきたりのことのように感じられるかもしれない。しかし、大事なのはこうしたことを常に意識して質問するかどうかということで、それによってその後コミュニケーションの技術として質問力を高めていけるかどうかが変わってくると思う。

 質問力を高めるためにどういうことを意識すればよいか、自分の中で整理するのによい本。

4480421955質問力 ちくま文庫(さ-28-1)
齋藤 孝
筑摩書房 2006-03-09

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関連記事:
コーチングの技術(菅原裕子)(2006.08.16)
会議革命 - 効果的な会議の進め方(齋藤孝)(2005.04.19)

2006.09.22

グーグル・アマゾン化する社会(森健)

 河北新報社のブログ“Web日誌”で紹介されていたので関心を持ち、読んだ本。検索したら著者のブログもあり、この本の紹介もされていたが、ブログ自体はあまり頻繁に更新はされていないようだ。

 帯には「多様化、個人化、フラット化した世界で、なぜ一極集中が起きるのか?」とあり、その問いへの答えとの形で論が進められていく。そしてその答えだが、簡単に要約すれば以下のようになる。

 インターネットによって情報の分散化、フラット化が進み、情報はネットワーク状になっている。そうしたネットワークは“スケールフリーネットワーク”を形成しており、スケールフリーネットワークにおいては優先的選択が起きるためグーグルやアマゾンは一人勝ちしている。

 …と、大まかに言えばそういう結論になっている。最終的には、ネットにおける民主主義といったことにも話が及ぶが、まずはスケールフリーネットワークとはなんなのかということを、自分が理解した範囲で少々説明したい。

 スケールフリーネットワークとはどのようなものかというと、多数のリンクを持つ少数のノード(結節点)と少数のリンクを持つ多数のノードからなるネットワークのことである。

 スケールフリーネットワークの具体的な例としては、人間の交友関係や、航空機の航路、ほ乳類の脳におけるニューロンのネットワークなどが挙げられていた。航空機の航路の例で言えば、日本では羽田や関空といった空港がハブとなって多数の航路を持つ一方、地方の空港はそれほど航路を持たない。地方空港から地方空港へと行く場合にはハブとなる空港を経由することになる。

 スケールフリーネットワークの特徴は(1)成長があること、(2)優先的選択が起きることである。つまり、ネットワークの成長によって新しいノードができるとき、そのノードはすでに多くのリンクを持っているノードとのリンクを優先的に選ぶようになる。しかし、適応度(ノードに対する魅力とでもいえばよいか?)が高ければ、後発でもハブになれるとのことだった。

 スケールフリーネットワークの具体例については、はてなキーワードの説明がわかりやすいと思う。WWW、インターネット、男女の性的関係、学術論文などの例が挙げられている。

 そして著者は、グーグルやアマゾンはユーザーが参加すればするほどサービスが充実する「参加のアーキテクチャー」となっており、そのためスケールフリーネットワークが働くウェブの世界において多くのリンクを集めることになり、一人勝ちしているというのだ。

 スケールフリーネットワークだから一極集中が起きるというよりも、スケールフリーネットワークにおいてどうして(もしくはどのように)優先的選択がなされて、そのため一極集中が起きているかを考えた方がよさそうだ。そもそも世の中のネットワークは多くの場合スケールフリーネットワークなのではないだろうか(その対照となるのはランダムネットワークである)。

 本書でもその点について、知名度のあるものがある臨界点を超えるとますます爆発的に売れるなどといった例などを挙げて収穫逓増の法則について説明をしていたが、やや物足りない。本書読了後にネットであちこち調べていたら、ネット・エコノミー解体新書で磯崎哲也さんがネットワーク外部性についてオークションサイトであるイーベイの事例から説明していた。こちらの方が説明としてはわかりやすいだろう。

イーベイと「ネットワーク外部性」

 「ネットワーク外部性」とは、その製品やサービスの利用者が増加するにしたがって、利用者の便益が高まる効果を指す経済学上の用語であり、IT産業ではよく見ることができる現象である。
 例えば、WindowsなどのOS市場では、そこで使われるソフトウエアや利用者が増えれば増えるほど、他へ乗り換えづらくなる。通信も、プロトコルやイーサネット、メール、メッセンジャーなどを使う人がそれぞれ一定のしきい値」を超えると、使うメリットが急激に増大し、他のプラットフォームに乗り換えることが困難になり、結果として「一人勝ち」が発生する。価格や品質ではなく、「みんなが使っているかどうか」に左右されるところがネットワーク外部性の本質である。

 ついでながら、磯崎さんはグーグルとアマゾンについてもコラムを書いており、こちらも一読の価値があるので紹介しておく。

グーグルは「広告業」ではない
アマゾンと、ロングテールに関する“大きな勘違い”

 ところで、本書において著者は、ロングテールにおける勝ち組は、フラットに延びるテールの部分ではなく、グーグルやアマゾンと言った少数のヘッドなのではないかということを述べていた。もちろん、ウェブにおいてグーグルやアマゾンはロングテールのヘッドであることは確かだが、グーグルやアマゾン自身がロングテールを提供するプラットフォームとなっていることも重要なポイントではないだろうか。そして、それこそが彼らの富の源泉であるように思う。

 池田信夫 blogにも書いてあったが、ロングテールとは自己相似的(参考:フラクタル)で、部分の中にさらにロングテールが存在している。Web2.0ビジネスで勝つには、ロングテールのヘッドを目指すというよりは、自分自身がロングテールのプラットフォームになることを目指し、結果としてヘッドになる方がやりやすいかもしれない。

 本書の最終章では、ウェブのアーキテクチャーによって、思考や意見といったものが極端なものの方に流れる危険性についての懸念が述べられている。ここで出てきた沈黙の螺旋やサイバーカスケードといったことは、Web2.0が流行り出してから言われるようになったことではなく、特に前者などはインターネットが普及する以前からすでに言われていたのではないかと思う。Web2.0やスケールフリーネットワークとは無理矢理くっつけている感じもするし、目新しさはない。これらの問題点については、メディアの側(ここではウェブ)での改善点もあるだろうが、結局は受け手の側のメディアリテラシーにかかってくるのではないだろうか。

 問題点の実例として挙げられていたのは、グーグルで「靖国問題」とのキーワードで検索した結果の上位が、靖国問題について一方の側の立場に偏っているということだった。しかしながら、メディアリテラシーの高い人が靖国問題を総合的に調べたいと思ったら、キーワードの組合せを何通りか試してみることだろう。「靖国 論点」というキーワードにしただけでも結果はだいぶ異なる。

 この最終章での議論については、そのうち(気が向いたら)記事をあらためて書いてみたい。


4334033695グーグル・アマゾン化する社会
森 健
光文社 2006-09-15

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関連記事:
新ネットワーク思考(アルバート=ラズロ・バラバシ)(06.10.23)

2006.09.13

環境社会学 - 生活者の立場から考える(鳥越皓之)

 環境社会学の概説書。放送大学用テキストとして書かれた本の改訂版であり、内容は平易でわかりやすい。

 著者は、人は環境をよくしたいと思いながらも実際には悪化させ続けているとして、それは「“自分たち”に“利得”をもたらしたいから」であるという。そうした利得への魅力に対する「抗しがたさ」を、「社会的価値観、社会規範、社会制度、社会運動などのいわゆる社会レベルの事柄を通じて人々は是正しようと努め」、その社会レベルの事柄を分析するのが環境社会学の目的であるといっている。

 環境問題というと、科学の問題、理系の問題だというように捉えられることもしばしばあるが、科学による解決が目指されるとしてもそこに関わるのは人間である。また、科学技術ではなく、法律による解決策もあるし、もっと人々の生活に根ざした生活の知恵的解決策もある。そうしたものを「社会レベル」から分析していくのが環境社会学といえるだろう。

 概説書であるため環境社会学のトピックは網羅的に取り上げられているが、著者もその理論モデルの構築に関わった生活環境主義については紙数を割いて紹介されている。また、生活環境主義とも親和的なトピックである人々の暮らしと環境の関係(コモンズ、農業、歴史的環境など)についての話題が多いのも本書の特徴である。

■生活環境主義

 自然環境の保護を最も大事にする考え方を自然環境主義、近代技術に信頼を置く考え方を近代技術主義とする。それらの考え方との対比で、そこに暮らす地元の人たちの生活のシステムの保全をもっとも大事にする考え方を生活環境主義としている。

 例えば、自然環境を守るために一定区域を保護区として人間が立ち入れないようにするやり方は自然環境主義といえるだろう。しかし、自然をうまく利用しながら生活してきた歴史も人間は持っている。マタギや伝統的農業などがそうした例として挙げられる。このような、生活に根ざしながら環境との調和を図っていくのが生活環境主義の考え方である。白神山地が世界遺産となり、それまで自然と調和しながら山の資源を利用してきたマタギまでも山に入れなくなってしまったというのは、自然環境主義と生活環境主義がバッティングしているひとつの事例だろう。

■共同占有権

 生活環境主義で使われる概念でこれはおもしろいと思った「共同占有権」について簡単に紹介。

 共同占有権とは、特定の地域(自治会範域程度が一番多い)に居住する住民が敢行として「利用している」という事実を論拠にして、当該地域を共同して占有している事実をさす。

 農村地域でよく見られるものだが、都会においてもそうしたものがあるという。本書で例として挙げられていたのは都会の川の話である。ある都会で住民が川をきれいにする運動があり、数年かけて子どもたちが水遊びができるくらいにした。そうなると、行政が河川の改修をしようとしても、実質的には住民組織の同意がないとできなくなってしまったそうだ。

 確かに、こうした例は環境問題に限らずある。利用する人たちによって公共(圏)が発生しているわけだ。

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 コミュニティの再生が叫ばれて久しいが、平成の大合併や地方格差の問題、2007年問題(退職した団塊世代の企業人間が大挙してコミュニティに戻ってくる)を受けて、まちづくりに関わる行政・NPO・研究者などの間で近年またコミュニティというものがクローズアップされている。そうした分野でも生活環境主義の考え方は使えそうだ。

 以前紹介した山岸俊男『安心社会から信頼社会へ - 日本型システムの行方』はコミュニティ内でのコミットメント関係から一般的信頼へという論調だったが、人が生活していくためにはコミュニティに根ざして生きていかなければならないことも多いし、実際現場で役立つのはコミュニティでの関係や、その中で使われている「生活知」だったりする。

 だから、どちらか一方というのではなく、両者の使い分けが重要なのだと思う。現在うまくいっている農村などは、コミュニティ内の関係と、コミュニティ外への一般的信頼というのがそれぞれバランスがとれているからうまくいっているのではないだろうか…と感じた。


4130520229環境社会学?生活者の立場から考える
鳥越 皓之
東京大学出版会 2004-10

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2006.09.10

安心社会から信頼社会へ - 日本型システムの行方(山岸俊男)

 あなたはある心理学の実験に参加することになった。実験は二人一組で行われる。実験参加者には謝礼が支払われることになっており、実験に参加するにあたってまず、謝礼の「分配方法の選び手」と「謝礼の決め手」のどちらになるかを決めるためのくじを引かなくてはならない。

 くじの結果、あなたは「分配方法の選び手」となった。謝礼の分配方法の選び手となった実験参加者は、次の2つの分配方法からどちらかを選ぶことになる。

A 二人とも実験者から直接に1000円を貰う。
B 実験者から「謝礼の決め手」に2500円を渡してもらって、決め手に、好きなやり方で2500円を分けてもらう。

 実験は二人一組で行われるが、あなたはそのパートナーと顔を合わせることはなく、誰なのかもわからない。

 実験の手続きはコンピュータ上で行われ、参加者と直接に顔を合わせる実験者にも、参加者の決定内容はわからないようになっている。つまり、分配方法の選び手も謝礼の決め手も、まわりの目を気にすることなく決断をすることができるのである。

 さてこの場合、分配方法の選び手となったあなたはAとBのどちらの分配方法を選ぶだろうか。


 著者は社会心理学者。社会科学や心理学などの分野で関心が高まっている「信頼」について、ゲーム理論を元にしたさまざまな実験の結果から考察している。民主主義社会における経済パフォーマンス、途上国への支援プログラムの成否、あるいはネットコミュニケーションの在り方など、さまざまな分野で近年注目されているソーシャルキャピタルの研究においても、信頼は中心的な要素である。

■安心と信頼

 本書で扱われる信頼は、人間の意図に対する信頼と限定されている。すなわち、人間以外のもの(機械など)に対する信頼や、人間の能力に対する信頼(それを遂行する能力があるか)は扱わない。そうした人間の意図に対する信頼についても、2つの異なった内容があるという。

 1つは、相手にとっての自己利益に基づく相手の行動に対する期待である。例えば、借金の申し込みに家や土地が担保となっているならば、きちんと返済してくれることが相手に期待できる。このとき、相手の行動傾向や人間性は、相手の行動への期待に無関係である。こういう場合での相手の行動への期待に、著者は信頼から分けて「安心」という概念を用いている。

 そしてもう1つの、相手の行動傾向や人間性に基づく相手の行動への期待を「信頼」としている。

 社会的不確実性(相手の行動いかんによって自分に不利益がもたらされる状態)の高いときに問題になるのは、信頼の方である。それに対し、安心というのは社会的不確実性がない状況についての認知ということになる。

■一般的信頼

 不特定一般の人間に対する信頼を一般的信頼という。質問紙調査やさまざまな実験の結果、一般的信頼について日米比較をしたところ、アメリカ人の方が日本人よりも一般的信頼の度合いが高かったという。

 集団主義社会の日本では相互監視・規制が働き、集団内において相手へ不利益をもたらす行動は結局自分への不利益につながる。つまり日本は安心社会であり、そこでは信頼があまり必要ではないためそのような結果となったというのが著者による解釈である。集団主義社会の特徴として、「コミットメント関係を形成することによって不信が生み出す非効率問題の解決をはかること」が挙げられている。

 冒頭の実験も本書で紹介されている一般的信頼についての実験である(一部表現を変えてある)。著者らが作成した一般的信頼尺度テストの高得点者(高信頼者)の58パーセントはBの2500円を相手に分けてもらうやり方を選んでいたが、低得点者(低信頼者)では17パーセントしかBを選んでいなかった。あなたはどちらの方法を選んでいただろうか。

■社会的知性とその多重性

 本書において著者は、「社会的環境における基本的適応課題を解決するための能力」を社会的知性と定義している。そうした社会的知性も、適応課題に応じて相互に独立的に多重に存在していると考えられる。著者は社会的知性の中から2つのタイプの知性を取り上げ、それぞれ地図的知性、ヘッドライト型知性と名付けている。

 地図的知性とは、集団の中の人間関係についての知識、すなわち「社会的地図」を作り出す能力を核とした社会的知性のこと。地図的知性が高い人は一般的信頼が低く、集団から離れることに対しての不安を持っており、他者に対する共感が低い傾向にある。

 ヘッドライト型知性とは、相手の立場に身を置いて相手の行動を推測する能力を核とした社会的知性である。自分の属する集団については誰しもその中の人間関係の情報、すなわち社会的地図を持っている。しかし、集団の外へ出て社会的世界をナビゲートするにはそうした地図は役に立たなく、相手の立場に立って相手の状況を理解することが必要になる。そうした能力を地図的知性と対比して、著者はヘッドライト型知性と呼んでいるわけだ。ヘッドライト型知性の高い人は一般的信頼が高く、他者に対する共感が高い傾向にある。

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 著者は、安心社会である集団主義社会が日本で崩壊しつつあり、社会的不確実性は増大していることを指摘し、開かれた信頼社会の構築と、一般的信頼に結びついた社会的知性であるヘッドライト型知性を育成することを提唱している。

 しかし、速水敏彦『他人を見下す若者たち』で指摘されているような、他人への共感の乏しい若者が増えているのだとしたら、社会の変化への反作用として、一般的信頼を持たず、集団主義への回帰を求める傾向があるのかもしれない。

 あと気になったことのひとつは、偏差値の高い大学の学生ほど一般的信頼の平均が高く、偏差値の低い大学の学生は一般的信頼の平均も低いということだ。大学一年生の場合には偏差値による相関がほとんどなく、二年生以上で相関が出てくることから、著者は偏差値の高い大学の卒業生の方が将来多様な機会に恵まれており、そのため一般的信頼が高くなるのではないかとしている。

 そうするとこれは、山田昌弘『希望格差社会』で言われているような、社会的・経済的格差だけではなく、将来への希望といった心理面における格差も広がっていることの裏付けなのだろうか。

 また、ネットで検索したところ、梅田望夫『ウェブ進化論』の「不特定多数無限大への信頼」(p.233)への関連からWeb2.0と結びつけた論もあった(例:『ウェブ進化論』が示唆する日本社会の未来 - 情報政策ブログ)。

 このあたりが次の論点になると思う。


4121014790安心社会から信頼社会へ?日本型システムの行方
山岸 俊男
中央公論新社 1999-06

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関連記事:
希望格差社会(山田昌弘)(2005.09.25)
他人を見下す若者たち(速水敏彦)(2006.07.02)

2006.09.06

Life Hacks PRESS - デジタル世代の「カイゼン」術

 lifehacks(ライフハック)とは、はてなのキーワードによると「効率良く仕事をこなし、高い生産性を上げ、人生のクオリティを高めるための工夫」のこと。本書は、この分野における日本の第一人者とでもいうべき田口元さん(百式管理人)他、著名なブロガーが執筆している。

 内容はGTD、Google活用術、プレゼンのテクニック、マインドマップ、便利な文房具や情報整理術など。知的生産を行う人にとって、すぐ役立つような方法・知識がたくさん紹介されている。

 まずはlifehacksの基本ともいうべきGTDについて。GTDとはデビッド・アレン氏の著作『Getting Things Done』の略で、ストレスなく仕事を片付けるシンプルな技法とでもいえばよいだろうか。GTDの基本的なポイントは、自分が気になっていること(やりたいこと、やらなくてなならないことなど)をすべて書き出し、それを適切にふるい分け、実行に移し、定期的にレビューするということ。

 書き出したものは一元管理して、あちこちにバラバラにならないようにすることが重要だろう。また、自分の場合は「超」整理法のやり方に倣って、直接、紙に書き出すのではなく、ポストイット(5cm × 1.5cm)に書き出すようにしている。ポストイットならばふるい分けて分類するのが楽だし、優先順位づけを簡単にできる。

 他におもしろかったのは、特集3の「プレゼンが簡単にうまくなる」。この特集自体がプレゼン仕立てになっており、とても参考になる。内容は以下のような感じ。

・プレゼンの原則は「KISS」…短く、簡潔に
 Keep it short, stupid.
 Keep it short and simple.
 Keep it simple and strait-forward.
 Keep it small and simple.

・説明は「女性のミニスカート」…短い方がよいが、短すぎてもいけない
 Sentence length is like a girl's skirt: the shorter is the better, but it should cover the most important parts.

・伝えたい内容は三度言う…概略、説明、まとめ

などなど。26ページほどだが、さらっと読めるので、このプレゼンについての特集は立ち読みしてでも読むことをお勧め。

 この本で紹介されていたツールをさっそく取り入れてみた。腰リールと三色フォルダ。腰リールは名札ストラップ用のリールやリールキーホルダーなどにペンや単語カードを取りつけて、ベルト(自分の場合はベルト通し)にぶら下げるというもの。普段から手帳とペンを持ち歩いているものの、いざというときにどちらか(もしくは両方)を持っていないことも多い。そのままにしておくと忘れそうなことをメモするのに腰リールはかなり重宝する。

 リールキーホルダーはロフトのケータイストラップ売り場に置いてあった(最初はそういうことを知らずに、オフィスベンダーでリール式名札ストラップを購入し、リールの部分だけ取り外したがこれはけっこう面倒かつ他のパーツを無駄にする)。

 三色フォルダはGTD用。赤は気になること全てを溜めておくところ。黄はメモ用紙入れ。青は資料入れ。


 このような感じで、すぐ実行したくなるlifehacksネタが溢れている。後は、きちんと「定期的にレビュー」するようにしたい。


4774127280Life Hacks PRESS ~デジタル世代の「カイゼン」術~
田口 元 安藤 幸央 平林 純
技術評論社 2006-03-23

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関連:

4122042097「超」整理法1 押出しファイリング
野口 悠紀雄
中央公論新社 2003-05-23

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2006.09.05

1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方(滝井秀典)

 アフィリエイトの役に立つかと思って買ってみた本。ただし、この『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』自体はネットビジネス向けの本で、アフィリエイト向けではない。それどころか、著者は安易にアフィリエイトで儲けようとする姿勢には批判的だ。

 「はっきりいえば、アフィリエイトで月収50万円を稼ぐよりも、実業で100万円稼ぐ方がはるかに簡単である。せっかくお客さんを集める能力を持っている人たちが、なぜこんなもったいないことをしているのか、私は不思議でしょうがない」と著者は言っているが、言われてみればその通り。アフィリエイトで月に100万稼げても、1000万稼ぐことはほとんど無理だろう。本業の片手間にアフィリエイトで100万稼げるのならいいが、月100万円レベルのアフィリエイターはアフィリエイトが本業というケースが多いのではないだろうか。

 そして著者は、アフィリエイトの本質的な問題点として、「顧客リストがつくれない」ことを挙げる。著者によれば「新規顧客として購入してくれたお客さんは、ある一定の確率で必ず他の商品も買ってくれる」そうで、“枯れない”ビジネスモデルをつくるには、顧客リストが重要だというわけである。

 著者のネットマーケティングの手法をごく簡単にいうと、ヤフーやグーグルのキーワード広告で競合相手の少ない、ニッチな高額商品を売れ、ということになる。

 しかしそのニッチなキーワードをどうやって探すかというのがポイントで、この本ではそういうキーワードのパターンや、キーワードの探し方などがいろいろ説明されている。ここらへんは、ネットビジネスを始めようとまでは思ってないがアフィリエイトでちょっと小銭を稼ぎたいくらいの人でも、十分役に立つと思う。

 なるほどと思ったものをいくつか紹介。

●タウンページ言葉

 人がタウンページを開くときというのは、たいていの場合、何かの問題を解決したいとき。よって特定の業種(中古車販売、シロアリ駆除、葬儀屋等)では、かなり効率的に集客ができる。タウンページに掲載されているこうした「職種言葉」が検索エンジンでも売れるキーワード。

●マニアックな趣味言葉

 この本で紹介されていたのは剣道や社交ダンスなど。

 社会人がある程度お金をかけてやるスポーツ業界、マニアックな趣味業界はインターネットに非常にチャンスの多い、儲かる市場である。本来、このカテゴリーの商売は、告知手段が非常に限られる。通常は趣味に応じた雑誌媒体くらいしか告知のしようがない。

…という状況を、ネットのキーワード広告が変えてしまったわけだ。アフィリエイトにはあまり役立たないかもしれないが、ネットビジネスをやるならこういう分野からとなるのだろう。


■キーワードを探すツール

 自分も以前から知っていたものも含めて、この本に出ていたものをいくつか紹介。

キーワードアドバイスツール
 オーバーチュアが提供する月間検索数を調べるツール。この本には載っていなかったが、キーワードアドバイスツールプラスというのもあって、こちらはグーグルやヤフーでの検索結果ページ数もわかり、KEI(キーワード有効指数)も出してくれるので便利。

Overture - 入札価格チェックツール
 キーワード広告の入札価格をチェックできる。いろいろ調べてみるとけっこうおもしろい。

・キーワードランキング
 ポータルサイトでは検索されるキーワードのランキングを発表している。自分としては、結果をRSSで配信しているところがお薦め。GooキーワードランキングBiglobeサーチ旬感ランキング@nifty瞬!ワードなど。


 自分はネットビジネスを始めるつもりは当面ないが、なかなかおもしろく読めた。どういうものなら売れるだろうかと考えてみたくなる本。


456964967X1億稼ぐ「検索キーワード」の見つけ方—儲けのネタが今すぐ見つかるネットマーケティング手法
滝井 秀典
PHP研究所 2006-03-21

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2006.08.16

コーチングの技術(菅原裕子)

4061496565コーチングの技術?上司と部下の人間学
菅原 裕子
講談社 2003-03

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 コーチングの技術、概要を平易にまとめてある本。「上司と部下の人間学」というのが副題となっているが、もっと一般的なコミュニケーションのあり方として参考になりそうだったので読んでみた。著者の菅原裕子氏はコーチングやファシリテーションの専門家で、企業研修や企業文化構築のコンサルティング活動をしている会社の代表取締役。

 コーチングとは、ある人間が最大限の成績を上げるために、その人の潜在能力を解放することをいいます。そのためには、指導者は仕事のやり方を教えるのではなく、対象者が自ら学べるように援助しなくてはなりません。(p.28)

 変化の早い時代においては、現場の社員が上司の指示や命令で動くだけでは、顧客のニーズをつかむのに時間がかかってしまい、その変化の流れについていけなくなってしまう。そのため、部下が上司の手足となって動くのではなく、仕事の主役として自ら動くことが求められるようになった。一方、上司は部下がよりよい仕事をできるよう援助することを求められ、その技術としてコーチングが注目されるようになった。(pp.24-25)

 コーチングが機能するには組織内の環境も整っている必要がある。いくつかポイントが挙げられていたが、重要だと思ったものを2点取り上げる。

 1つは組織内でビジョンが語られているかということ。組織のビジョンがはっきりしていれば、それが判断基準となり、社員は自主的に決断を下すことができる。それがないと、何でも上司に確認しないと判断ができないわけだ。以前ある公共施設で、緊急時にあるお願いをしたところ、ルールなので認めるわけにはいかないと言われ、押し問答の末、上司に確認しますとなって、最後にようやく認めてもらったことがあった(ただしそのときには遅過ぎたのだが)。その施設の運営のビジョンがはっきりしていれば、お願い自体は些細なことであり、現場の判断で簡単に認めてもらえたと思う。

 ビジョンについては、組織としてのビジョンだけでなく、組織内における個人のビジョンも語られていることが重要だという。夢や目標を持っているときこそ、個人は力を発揮するわけで、組織のビジョンと個人のビジョンの接合を図るのが上司の役割となる。

 2つめは、組織内の共通言語を増やすこと。共通言語を増やすことで、組織内のコミュニケーションでのあいまいさをなくし、全員が同じイメージを持つようにする。例として挙げられていたD社では、社内コミュニケーションの心得を作成し、コミュニケーション環境の整備を図っていた。以下にいくつか紹介する。

  • 上司からの伝言や指示は、内容を確認し理解した後、メモをしてすぐに報告すること。
  • 業務上の話し合いや打ち合わせの際、次の行動が明確になるまで話し合いを切り上げてはいけない。
  • 相手の解釈に任せず、自分の意思表示をはっきりする。

等々。

 そして、コーチングの基本プロセスだが、以下の流れで行われる。

  1. ラポールの構築
  2. 会話への導入
  3. 現状の確認
  4. 問題・課題の特定
  5. 「望ましい状態」をイメージする
  6. 解決法の検討
  7. 課題を達成するためのプラン作成
  8. プランの確認
  9. 力づけ
  10. フォローの約束

 その昔、港区赤坂四畳半社長というブログの「理系の男はなぜモテないのか」という記事が話題になったことがあった(現在この記事はすでに存在しない)。その記事では、理系の男=問題解決型コミュニケーションと、女性=共感型コミュニケーションが対比されていて、そうしたコミュニケーション方法の違いにより理系の男は女にモテないのだということだった。

 それで、かなり乱暴なまとめ方を許してもらえば、コーチングとはこの両方のコミュニケーションのいいとこ取りをしている技法のように感じた。

 相手への共感を示した上で、問題点とその解決法を一緒に探り、最後にまた共感を示して相手を力づける。根底にあるのは、人間は自分自身で問題を解決する潜在能力を持っているという考え方であり、コーチングとはその力を引き出すよう支援する技術ということなのだろう。

 熟達するにはそれなりの訓練が必要だろうが、コーチングのちょっとした知識を持っているだけでも実生活でなにかと役立ちそうだ。この本で紹介されていたコーチングの質問の技術などはいろいろな場面で使えそうだと思った。

2006.08.02

燃料電池のすべてが面白いほどわかる本(御堀直嗣)

 

4806117897燃料電池のすべてが面白いほどわかる本?環境・エネルギーのことを解決する夢の科学入門
御堀 直嗣
中経出版 2003-03

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 燃料電池のことについて知りたいと思っていたが、入門書とされる本でも技術的な話が多く、どうも取っ付きにくく感じていた。

 しかし、この本は技術的な知識があまりなくても手軽に読めて、とりあえず燃料電池がどのようなものか知りたいという人にお薦め。1項目が見開き2ページで、親しみやすいイラストもついていて、燃料電池の全体像がわかるようになっている。

 学校の理科の授業でやったように、水を電気分解すると、水素と酸素にわかれる。これの逆に水素と酸素を合わせてやると、電気と熱、そして水ができるわけである。これが燃料電池の発電原理になる。

 燃料電池は分散型(オンサイト)の発電システムのため、必要な場所に最適のサイズのシステムを設置でき、電気と熱の両方を供給できる(コージェネレーション)ため、とてもエネルギー効率がよい。「ウェル・トゥ・ホイール(*)の総合効率で、ガソリン車の3倍、ハイブリッドカーに比べても1.5倍優れた値が見込め」るそうである。

*油井から、タンカーでの輸送、石油の精製、ガソリンスタンドへの配送、クルマで使うときまでの効率をすべて含めるという意味。

 燃料電池は、発電方式によって5種類のタイプがあって、それぞれサイズや用途が違っており、発電温度が高温のものと低温のものとがある。小型・軽量で家電やクルマ向けのシステムなのは固体高分子型で、これは電極に貴金属であるプラチナを使っているため、そのあたりがコスト的なネックになっているようである。

 燃料電池で発電するためには、水素が必要になる。この水素をどこから供給するかが燃料電池普及の課題と思われるが、都市ガスやプロパンガスから水素を取り出して利用するシステムの開発が行われているそうであり、手頃な価格でそうしたシステムが販売されれば、普及は早いかもしれないとのこと。ただし、自動車についてはまだまだ一般的な普及は難しいようだ。

 エネルギーの供給も、次第に分散型に移っていくのではないかと思う。時代の大きな流れを見誤ると、後に痛い目を見ることになるのではないだろうか。

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