4478360715 ザ・ファシリテーター
森 時彦
ダイヤモンド社 2004-11-12

by G-Tools

 ファシリテーションに関する本はたくさん出ていて、様々な手法・技法も数多く紹介されています。そういった手法・技法がどういった場面で使われるかの解説も当然あることはありますが、生きている組織の中でどのように使われているのかは解説書だけ読んでもなかなかわからないものです。

 この本は、とある企業を舞台に、主人公たちがファシリテーションを駆使しながら組織変革を果たしていくという小説仕立てになっています。そこで、ファシリテーションとその効果を擬似的に体験できるかと思い読んでみました。

 ストーリーは、前書きのところから抜き出すと以下のとおり。

 主人公は、黒澤涼子という三〇代後半の女性。中規模の応用化学品メーカーのSCC社で、マーケティング部門のセグメント・リーダーだった彼女が、畑違いの製品開発センター長に抜擢されるところから、この物語は始まる。やがて彼女は、専門知識面でも、年齢でも自分を上回る男性の部下を率い、ファシリテーションを駆使して成果をあげはじめる。それに気づいた社長の亀井は、黒澤涼子の手法を活かしたプロジェクトで、全社の課題解決に乗り出す。そして……。

 人物描写やストーリー展開もよくできていて、小説としても十分楽しめる内容。どんどん物語に引き込まれて読み進めました。

 プロのファシリテーターとして、神社(かみやしろ)という一風変わった、食わせ者的なキャラの人物が登場します。この本の中で印象的だったのは、会議の中で感情的な議論が出てくるようになったとき、ファシリテーターの神社がおもちゃのサッカーボールを4つ持って現れて、会議で発言するときに相手に向かってボールを投げることを提案した場面。

 神社は、ボールをただ投げるのではなく、投げ方で気持ちを表すということで、例えば相手を非難するようなときには厳しいボールを投げるようにと、投げ方を実演してみせます。会議に参加しているSCC社の若手社員はそれを見てみなびっくりするのですが、今まで自分たちがしていた議論は、ボールで可視化するとそのような議論だったと気づくわけです。そして、議論を再開し、ボールを投げながら議論を進めるようにすると、相手を非難するようなトーンはなくなっていきました。

 ファシリテーションというと、SWOT分析などのフレームワークを使って、議論や思考を可視化するというイメージがあります。しかし、感情や気持ちの可視化というのも大事だなと改めて思った次第です。

 以前テレビで、泣いている赤ん坊をおとなしくさせるテクニックとして、デジタルビデオカメラでモニターして、モニター画面を赤ん坊の側に向けるというのを見たことがあります。何人かの赤ん坊で実験していましたが、多くの赤ん坊が見事に泣き止んじゃうんですね。自分の泣いている姿をモニター画面で見ることで、赤ん坊でも客観的に自分を見ることができるのでしょう。

 赤ん坊と一緒にしちゃうのもなんですが、感情を可視化することは、客観的に自分や相手を見ることができるようにする効果があるのでしょうね。

 ファシリテーションとは、単なる会議の技法ではなく、組織変革や個人の成長・行動の変容につながるものであり、著者もそうしたことを伝えようと意図して小説という形式を取ったようです。マニアックにファシリテーションを極めたい方よりは、組織の中でファシリテーションのマインドやスキルを活かしていきたい人におすすめ。

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